大躍進の韓国映画のパワーがこの一本に『スピード・スクワッド ひき逃げ専門捜査班』(文/江戸木純)

解説記事 編集部 
大躍進の韓国映画のパワーがこの一本に『スピード・スクワッド ひき逃げ専門捜査班』(文/江戸木純)
とどまるところを知らない韓国の映画やドラマの大躍進。そんな今の勢いをダイレクトに感じさせてくれるカー・アクション刑事映画だが、真の魅力は別のところにあり。そして、江戸木純が最後に推奨する、「日々飛躍的に面白くなっていく韓国映画をより楽しむために避けては通れないもの」とは何か!?

目次[非表示]

  1. もはや世界映像コンテンツ史の産業革命!そんな韓国映像界の勢いを感じさせる本作
  2. カー・アクション以上の見どころは、生身の俳優たちの豪華なアンサンブルと圧倒的な演技

もはや世界映像コンテンツ史の産業革命!そんな韓国映像界の勢いを感じさせる本作

『パラサイト/半地下の家族』(2019)のカンヌ国際映画祭でのパルムドール獲得およびアカデミー賞での作品賞はじめ4部門受賞、国籍はアメリカ映画だが、韓国系の監督とキャストが高い評価を受けた『ミナリ』(2020)での、韓国映画界のベテラン女優ユン・ヨジョンのアカデミー賞最優秀助演女優賞受賞、さらにマ・ドンソクやパク・ソジュンのハリウッド進出やNetflixドラマ「イカゲーム」(2021)の世界的大ヒットなどを例に挙げるまでもなく、韓国の映画やドラマなどの映像コンテンツが近年、驚異的な質的向上を遂げ、俳優たちの人気も高まり、世界中が注目していることは、今や映画ファンなら誰もが知り、その凄さをすでに実感している事実だろう。それはもはやブームという言葉を突き抜けた、産業革命とでも呼ぶべき世界映像コンテンツ史的大変革といえる。

 ハン・ジュニ監督の『スピード・スクワッド ひき逃げ専門捜査班』(2019)も、そんな韓国映像界の勢いを感じさせる作品だ。

 韓国映画初の大規模なカー・アクションを売りにしたこの作品、『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)や『アシュラ』(2016)のアクション監督ホ・ミョンヘンが手掛けた、リアルなカー・アクションや格闘シーンはハリウッド映画にも負けない大迫力かつ痛快さで、最高の見せ場となっている。

 韓国の映画やドラマに登場するカー・アクション・シーンのお約束の一つに、「横からの追突」という名物がある。多くは車に乗った人物を殺害する目的で、横から大型車が突っ込んで来るのだが、車を使ったアクションで「横からの追突」がない作品は存在しないといえるほど、韓国ではいろいろな作品で本当に頻繁に車が横から突っ込んでくる。この作品でももちろん、韓国映画史上屈指の派手な「横からの追突」がいくつも用意されている。だが、そんなカー・アクションはこの映画の面白さのほんの一部でしかない。

 内部調査班の女性警部補ウン・シヨン(コン・ヒョジン)が、警察庁長官の汚職疑惑に対する強引な捜査の責任を負わされ、交通課の片隅にあるひき逃げ専門捜査班に左遷させられる。ひき逃げ専門捜査班では3か月前のある事件を追っていた。その事件の容疑者は、警察庁長官への賄賂疑惑の容疑者でF1レーサー出身の実業家、JCモーターズ会長のチョン・ジェチョル(チョ・ジョンソク)だった。シヨンは自動車事故に関する天才的プロファイリング能力を持つ元暴走族で捜査班のエース、ソ・ミンジェ(リュ・ジュンヨル)と協力してジェチョルを追い詰めるが…。という物語が、テンポよく、スリリングに語られていく中、警察上層部の裏切りと汚職、サイコ気味の企業トップ、天才的捜査員が抱える過去のトラウマなど、韓国映画やドラマによくある定番的要素がほぼ全部乗せでバランスよく展開されていく。

 監督のハン・ジュニは『サイコメトリー 残留思念』(2013)の脚本を経て、『コインロッカーの女』で長編監督デビューを果たし、プチョン国際ファンタスティック映画祭2015で審査員特別賞を受賞するなど高い評価を受け、本作が2作目の長編映画となる注目の新鋭。

 最新作は今年の8月にNetflixで配信開始されたチョン・ヘインとク・ギョファンが主演するシリーズ「D.P.-脱走兵追跡官-」で、本作と同じく、軍隊内の特殊な部署をテーマに組織内の問題点を描き、キャストの熱演も見応えのある傑作で、続編も期待されている。

 脚本家出身で、着眼点のユニークさに定評があるハン・ジュニ監督だが、この『スピード・スクワッド ひき逃げ専門捜査班』では、筋立ての突飛さや凝り過ぎた台詞を並べることなく、俳優たちの最高の演技を引き出しながら、キャストの魅力を画面にぶつけ合うことで映画的面白さを引き出している。

カー・アクション以上の見どころは、生身の俳優たちの豪華なアンサンブルと圧倒的な演技

 つまり、この作品はカー・アクションが表向きの売りではあるのだが、それはあくまでもちょっと刺激的なスパイス程度でしかなく、観客の琴線に触れる一番の見どころはやはり、生身の俳優たちの豪華なアンサンブルと、その芸達者たちが見せる圧倒的な演技そのものにある。そして、それは韓国の映画やドラマをたくさん見ていればいるほどより面白く、楽しめる。韓国製コンテンツがここまで強いのは、やはり実力があり魅力的なタレントが豊富に揃っているということに尽きるだろう。

 主演のコン・ヒョジンに関しては、『女は冷たい嘘をつく』(2016)、『ドアロック』(2018)、『最も普通の恋愛』(2019)と、最近の映画主演作だけを並べてもちょっと地味な印象を受ける映画ファンも多いかもしれない。だが、彼女は「パスタ~恋が出来るまで~」(2010)、「最高の愛~恋はドゥグンドゥグン~」(2011)、「主君の太陽」(2013)、「プロデュサー」(2015)、「椿の花咲く頃」(2019)といったラブコメ系ドラマを大ヒットさせ、“視聴率女王”と呼ばれている人気スターだ。そんなどちらかというと陽気でほんわかしたイメージの彼女が体当たりでハード系アクションの主役を張っているというのが、この映画の大きなポイントなのだ。

コン・ヒョジン

 彼女を支える天才捜査を演じるのが若手カメレオン俳優リュ・ジュニョル。『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017)、『リトル・フォレスト 春夏秋冬』(2018)、『毒戦 BELIEVER』(2018)、『金の亡者たち』(2019)と話題作に連続出演し、「運勢ロマンス」のようなラブコメ・ドラマもこなすなど、毎作同じ俳優が演じているとは思えないほどまったく違う演技を見せる韓国の柄本佑か窪田正孝とでも呼びたい超演技派。本作でも、草食オタク系の捜査官が、元暴走族のドラックディーラーだった過去を持っており、野獣系の凶暴な本性を現わしていく後半のキャラ変で見る者の心を鷲づかみにする。

リュ・ジュニョル

 その2人が対決する巨大な敵役を演じるのが悪役初挑戦のチョ・ジュンソク。脱出サバイバル・アクション『EXIT イグジット』(2019)のヒットも記憶に新しく、コン・ヒジョンの相手役を演じたドラマ「嫉妬の化身~恋の嵐は接近中~」やNetflixの最新主演ドラマ「賢い医師生活」シリーズも大好評の人気スターだ。日本だったらこの位置の俳優がこれほどの極悪非道な悪役を演じることはまずないが、スーパースター級の俳優が突然最高に憎たらしい悪役を、楽しげに演じてしまうのも韓国映画&ドラマ界の懐の広さといえる。

チョ・ジュンソク

 脇を固めるキャストも主演クラスが揃っているのがこの映画の凄いところ。主人公の仲間のふりをして実は自分が警察署長の座を狙っている冷酷な女性上司を演じるのが、大ヒット・ドラマ「SKYキャッスル~上流階級の妻たち~」(2018)に主演したミス・コリア出身のクール・ビューティ、ヨム・ジョンア。臨月間近の体でひき逃げ捜査班を陰で支え、ラストは管制室からの大活躍を見せる係長を演じるのが、『王の運命‐歴史を変えた八日間‐』(2015)、『名も無き野良犬の輪舞』(2017)、『詩人の恋』(2017)、『ビースト』(2019)、『白頭山大噴火』(2019)とこれまた毎作まるで別人として登場してくる演技派女優チョン・ヘジン。また、ヒロインの恋人でもある検事を演じているのは、ウォシャウスキー姉妹のシリーズ「センス8」(2015)や日本のドラマの韓国版リメイク「最高の離婚~Sweet Love~」(2018)、前記のハン・ジュニ監督最新作「D.P.-脱走兵追跡官-」でも強烈な存在感を発揮しているソン・ソック。さらに、ドラマ「ミセン‐未生-」(2014)や『工作 黒金星と呼ばれた男』(2018)、『ビースト』(2019)、『KCIA 南山の部長たち』(2020)、『第8日の夜』(2021)など、韓国映画界のおじさん系名優のトップを走るイ・ソンミンが、暴走族だったミンジュを更正させ、彼を養子にした元警察官の自動車整備工を演じて作品の重石となっている。

 そうした俳優たちの濃厚な熱演を見ているだけで、しっかりとお腹一杯にさせてくれる満足度の高い1本だが、エンド・クレジットが始まってもぜひ最後まで見て欲しい。ハン・ジュニ監督のデビュー作『コインロッカーの女』や大ヒット・ドラマ「トッケビ~君がくれた愛しい日々~」(2016)などで人気のあの女優が登場し、あなたをさらにニヤニヤさせてくれるハズだ。
 繰り返しになるが、とにかく韓国映画をより深く楽しむための最良の方法は、韓国の映画だけでなく、ドラマもできるだけたくさん見ることにある。

 現在の韓国映画界とテレビ界は、他の国のそれよりも親密な関係にあり、もはや作品的にも業界的にも一つの巨大な映像業界と捉えた方がいい。ある意味映画以上に国際的にセールスされ、視聴されている韓国のドラマは、資本力も他のアジア各国とは比較にならないほど潤沢な映画以上に強力なコンテンツとなっており、世界的にも映像クリエイティブの最先端を走っている。極端な言い方をすれば、韓国映画の質的向上を支えているものこそ、韓国ドラマの人気と隆盛なのである。映像ビジネスの中心が配信になることにより、作品の上映時間が2時間程度で終わらせる必要がなくなっていくことを考えれば、長尺ドラマに慣れた韓国映像界のアドバンテージはさらに大きくなっていくと予測できる。

 多くのファンがすでに感じているように、日々飛躍的に面白くなっていく韓国映画をより楽しむためにも、もはや韓国ドラマを避けて通ることはできないのである。
Profile : 江戸木 純(えどきじゅん)
1962年生まれ。映画評論家、プロデューサー。配給会社エデン代表。『ムトゥ 踊るマハラジャ』、『ロッタちゃん はじめてのおつかい』などを日本に紹介。『王様の漢方』、『丹下左膳・百万両の壺』では製作、脚本も手掛けた。著書に「地獄のシネバトル」「世界ブルース・リー宣言」、共著に「映画突破伝」「日本映画最終戦争」などがある。「映画秘宝」「週刊現代」「ヴォーグ・ジャパン」「映画.com」などに執筆中。twitter.com/EdokiJun
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