英国初の黒人警官のひとり、リロイ・ローガンを描いた第3話『レッド、ホワイト&ブルー』にまつわる『スモール・アックス』プロダクションノート

解説記事 スターチャンネルEX 編集部
英国初の黒人警官のひとり、リロイ・ローガンを描いた第3話『レッド、ホワイト&ブルー』にまつわる『スモール・アックス』プロダクションノート
『スモール・アックス』各話の製作背景が綴られたプロダクションノートを公開。本記事では実在の人物であるリロイ・ローガンの半生を題材にした第3話『レッド、ホワイト&ブルー』について、主演ジョン・ボイエガのインタビューも交えながら、その歴史的背景と製作の裏側に迫ります。

目次[非表示]

  1. リロイ・ローガンとはどのような存在なのか?
  2. 本作を製作するにあたって

リロイ・ローガンとはどのような存在なのか?

 「レッド、ホワイト&ブルー」は、ロンドン警視庁の元警視のなかでもっとも名高い人物の1人と言われるリロイ・ローガンの半生を題材にした作品である。実話に基づく本作は、警視庁に就職する直前から入庁後数年間の若きローガンの姿を描いている。

  スティーヴ・マックイーン監督と共に本作の脚本を手がけたクルティア・ニューランドは、「この作品はリロイの闘いと、苦境から脱するために彼がやらなければならなかったことの数々を描いています」と、語っている。「リロイは人を触発するタイプのポジティブな人物です。彼は気が変になったり、人種差別を受け入れてしまったりしてもおかしくない時期に、地域社会と再びつながるという決断をしました。そして彼は、地域社会の模範となる人物として今日までその名を残すことになったのです」。

『スモール・アックス』/第3話『レッド、ホワイト&ブルー』

 人種差別は、ローガンが警官を志した理由にもなっている。彼がロンドン警視庁に応募したのは、愛する父親が2名の警官によって不当きわまりない暴行を受けて入院した直後だった。その当時、ローガンは法医学者としてロンドンのロイヤル・フリー病院に勤務していた。社交的で運動神経の発達した彼は、自ら行動を起こすために法医学研究室を去ることにしたのだ。

 「『スモール・アックス』を構成する5作品、そしてこのアンソロジー全体が描いているのは、イギリスに住む黒人たちの抵抗の歴史です」と、ニューランドは話している。「これは我々がいかにして闘い、いかにして困難を乗り越えたか、その苦闘の記録なのです。このアンソロジーは、タイトルにもなっているスモール・アックス(反骨精神)だけではなく、スモール・アクツ、すなわち‟ちょっとした行動“についても描いています。歴史的な出来事として広く知られてはいない、何かに抵抗するためのちょっとした行動が作品の題材になっているのです。そうした行動は、社会の様相をも変えました」。
 誰かのささやかな行動には社会を変える力があり、だからこそローガンをめぐる物語は現在においても予見的で傑出したものになっていると、ニューランドは指摘する。「リロイ・ローガンは人種差別的な組織を内側から変革するために、みずから敵地に乗り込みました。彼は地域社会とともに働き、現在のような伝説的人物となったのです」。

 「リロイは警察という組織内で長年にわたって耐え抜き、そこでキャリアをまっとうした仕事熱心な警察官でした」、と製作総指揮を務めたトレイシー・スコフィールドはローガンを評している。「それにもかかわらず彼は何度も昇進を却下され、組織内で激しい人種差別を受けたのです」。

『スモール・アックス』/第3話『レッド、ホワイト&ブルー』

 スコフィールドが語った通り、ローガンは退職するに至るまで人種差別の標的にされ続けた。特に、1993年4月に発生したスティーヴン・ローレンスさん殺害事件に関して、マクファーソン判事による公的調査が行われてから、ローガンはさまざまな試練に見舞われた。同じく93年の4月、彼は後にイギリス黒人警察官協会の創設者となる同輩たちとの初会合を実施。

 数年後、汚職容疑で2度にわたって起訴されたイラン生まれのアリ・ディザエイ警視を支持したことから、ローガンはホテル代80ポンドを支払わなかったとしてスコットランドヤードから賠償を請求される。この件に関する捜査は5か月にわたって続き、その費用は10万ポンドにおよんだ。最終的に、ロンドン警視庁のジョン・スティーヴンス警視総監は、「ローガン警部に対する人種差別的な迫害事例を擁護することは、公共の利益に資すものではない。この捜査の結果が、ローガン警部の品位と信用をそこなうことはまったくありません。ロンドンにおける警察活動と多様性の問題に、ローガン警部は多大な貢献をしています」とのコメントを発表して、騒動に幕を下ろした。
 2001年、ローガンは長年にわたって警察活動に貢献したことにより、エリザベス英女王からMBE(大英帝国五等勲爵士)を授与された。彼は2013年に退職したが、ロンドン警視庁はその後も現在にいたるまで組織的な人種差別的を続けている。現役を引退したローガンは自身が設立した慈善団体ヴォエージ・ユース(Voyage Youth)を介して地域社会の若者たちと協働を続けているほか、2020年にはみずからの半生を綴った回顧録「Closing Ranks : My Life as a Cop」を上梓している。

『スモール・アックス』/第3話『レッド、ホワイト&ブルー』

本作を製作するにあたって

 「現代においても、リロイの半生は非常に興味深いものです」と、マックイーン監督はローガンについて語っている。「彼と父親との関係性には特に心ひかれるものがあったので、私はそこを深堀りすることにしました。リロイが下してきた数々の決断や、その決断の理由について話し合うために、私は脚本の執筆中に長時間をかけて素晴らしくも込み入った話を彼から聞かせてもらいました。父親とのことや、警察官を志すにいたるまでの緊張感をはらんだ物語こそ、私が書きたかったものなのです」。
 マックイーン監督はローガン役を演じる俳優として、当初からジョン・ボイエガを想定していたという。「私はずいぶん前からジョンと仕事をしてみたいと思っていたので、これがいい機会になると感じたのです」と、マックイーン監督は話している。「この映画で彼を観ることができて、観客も喜んでくれると思います。ジョンは新進の俳優なので、今回のような大人の男性の役を演じたことがありません。観客は彼の新たな姿を目にするとともに、絶頂期を迎えた素晴らしい俳優として彼を認識することになるでしょう」。

『スモール・アックス』/第3話『レッド、ホワイト&ブルー』

 この役を演じるにあたって、ボイエガはローガンと彼の家族に会う機会を得た。ローガン一族とともに過ごすという経験は、ローガンという実在する人物を的確に演じるうえでかけがえのないものになったという。

「リロイと会うのは、とても楽しかった。気楽な環境で食事をしながら彼と話せたことは、素晴らしい経験になりましたね」と、ボイエガは述懐している。「私は自分が普段よく行く場所にリロイを誘い、彼の人生について聞かせてもらいました。私にも彼にも縁がある場所もありましたね。子どもの頃、私はダミローラ・テイラー・センターなどによく行っていたのですが、リロイはそういう青少年センターや青少年クラブで仕事をしたことがあったそうです」。
 「私はリロイに数多くの質問をして、彼はそれに正直に答えてくれました」と、ボイエガはローガンと過ごした時間について語っている。「そのおかげで見えてきたものもあったし、自分の考えを修正することもできました。リロイが好きな音楽のことや、奥さんと一緒にやっていること、当時のロンドンの雰囲気など、細かいことをいろいろと教えてもらえました」。
 ボイエガは本作の時代背景と、1980年代のロンドンにおいて黒人たちが置かれていた境遇についてもリサーチを行った。「ロンドンにおける我々の歴史を正確に理解するために、時代背景に関するリサーチに取り組みました」と、ボイエガは説明している。

「リサーチを行ったのは、当時の社会について知るためです。ロンドンの住民であること、そしてロンドンに住む黒人であることが、実際はどのようなものだったのか知りたかったのです。そのどちらも、私たちが現代において経験していることとはまったく違いました。リサーチをしたことは、監督たちと話し合いをするうえで大いに役に立ちましたね」。

『スモール・アックス』/第3話『レッド、ホワイト&ブルー』

 「ジョン(ボイエガ)と私は、自分たちが経験してきたことについて何度も語り合いました」と、マックイーン監督は話している。「家族とのこと、家族のなかでも特に父親との関係、それに仕事上の経験などについて話しました。個人的な経験についてのみならず、イギリスに住む黒人の状況についても何度も話しましたね」。
 徹底したリサーチに加え、ボイエガはローガン役にふさわしい体をつくるためにフィジカルトレーニングにも励んだ。「撮影前からハードなトレーニングをしてはいましたが、警察官になるためにリロイがヘンドン警察学校で訓練を受けるシーンの撮影は本当に大変でした。あの日の撮影は、肉体を酷使するシーンばかりだったんです。腕立て伏せや腹筋運動、ボクシングなど、中学校を卒業して以来やったことのない昔ながらの持久力テストをやらされましたよ」と、ボイエガは説明している。

 「それに、マックイーン監督は過酷なシーンを短くしてくれるような人ではありませんからね。実際に訓練を受けてみると、リロイがいかに頑健だったかよくわかりました。彼は申し分のない体力の持ち主なんです。訓練中、私は疲れ果てて息を切らしてばかりいましたが、ケダモノのように強健なリロイと同じように平然としていなければなりませんでした」。

 本作で初タッグを組んだマックイーン監督について、ボイエガは「私が一緒に仕事をしてきた監督たちのなかで、スティーヴは間違いなく最高の監督です。彼は私には経験しえなかったほど深く芸術を理解しています。スティーヴは愛情や思いやりといった、人間がもつありのままの感情を何よりも大切にする監督です。彼は俳優たちが演技することを求めてはいるのではなく。役になりきることを望んでいるのです」。

『スモール・アックス』/第3話『レッド、ホワイト&ブルー』

『スモール・アックス』
原題:SMALL AXE

(c)McQueen Limited

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