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『SEOBOK/ソボク』(2021) 特集:もっと観るべき韓国映画 全作品解説⑦(文/岡本敦史)

解説記事 編集部 
『SEOBOK/ソボク』(2021) 特集:もっと観るべき韓国映画 全作品解説⑦(文/岡本敦史)
おかげさまで再生回数常時上位、今や不動の人気ジャンル、韓国映画。好評にお応えし、8、9、10月と怒涛の作品大量投下!初月となる8月は「これを見逃していたら勿体無さすぎる」という鉄板タイトルを10本、韓国映画に詳しいライターで編集者の岡本敦史さんにセレクトしてもらいました。

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  1. 年の差美男同士カップリング×大友克洋風サイキックSF要素。娯楽大作としての体裁×監督のパーソナルな心情が、類を見ないバランスで溶け合う異色作

年の差美男同士カップリング×大友克洋風サイキックSF要素。娯楽大作としての体裁×監督のパーソナルな心情が、類を見ないバランスで溶け合う異色作

 友人ではない。恋人同士でも、師弟関係でもない。ブラザーフッドとも、バディムービーとも呼べない。ただ運命のように出会い、かけがえのない存在になった2人……。そんな稀有な関係性を描いた物語が『SEOBOK/ソボク』である。年齢差のある美男同士のカップリングは、BL界隈ではよく見る設定かもしれないが、大衆向けの娯楽作ではなかなかお目にかからない。加えて、大友克洋作品を思わせるサイキックSF要素、恋愛感情がほぼ絡まない作劇、死生観をめぐる哲学的ドラマなど、韓国の大作映画としては類を見ない要素に満ちている。不思議な感触の作品だ。

 監督は『建築学概論』(2012)のイ・ヨンジュ。公開時にインタビューした際、本作のストーリーについてはジャンル映画として発想したのではなく、家族の長い闘病生活とその死という身近な出来事から着想したと語っていた。その言葉どおり、『SEOBOK/ソボク』は娯楽大作としての体裁と、監督のパーソナルな心情が類を見ないバランスで溶け合った異色作である。

 元情報局員のギホン(コン・ユ)は、極秘プロジェクトで誕生したクローン人間、ソボク(パク・ボゴム)の護衛を依頼される。しかし、その研究成果をめぐる苛烈な組織対立に巻き込まれ、2人は孤立無援の逃避行を余儀なくされる……という筋立ては、B級SFアクション映画としては珍しくもない。だが、本作が一風変わっているのは、ギホンが余命宣告を受けたニヒリストであり、対するソボクは永遠の命を持ちながら生きる理由を持たない「迷子」だという点である。この対比的構図は、両者の出会いのあとに始まるロードムービー的展開の随所で浮かび上がる。

 生と死との距離感が互いに異なる2人の関係は、絶えず不安定なバランスで揺れ続けるが、やがてどんな型にもはまらない絆を紡いでいく。強いて言うなら「家族」の絆だろうか。それは天涯孤独のソボクが探し求めるものであり、監督がこの物語を着想した出発点でもある。そして「誰かにとっての何者にもなれなかった」悔恨と虚無を抱えるギホンが得た、救いの糸だったかもしれない。

 ソボクが超能力を発揮する大破壊スペクタクルは『童夢』『AKIRA』顔負けの見せ場だが、映画の主眼はそこにはない。組織の非人間性、テクノロジーの暴走、大国の傲慢さなどを批判する社会派ムードもあるが、より重要なテーマの前には霧消する。それは「個人の心情や尊厳はどう守られるべきか」という問いだ。巨大な権力に食ってかかるのは韓国映画のお家芸だが、その行き着く果てに、ここまで個のドラマに収斂する作劇は稀である。

 旅の終わりに示される情景からは『ブレードランナー』(1982)との共通性も思い浮かぶ。娯楽映画としてはあまりにメランコリックだが、「心のこもってない大作」とは紛れもなく対極にあり、ゆえに忘れ難い一作だ。

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Profile : 岡本敦史
ライター・編集者。主な参加書籍に『塚本晋也「野火」全記録』(洋泉社)、『パラサイト 半地下の家族 公式完全読本』(太田出版)など。劇場用パンフレット、DVD・Blu-rayのブックレット等にも執筆。
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