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フランスの至宝・ベルモンド[後]〜ベルモンド映画史上最大のヒット作『大頭脳』〜(文/江戸木純)

解説記事 編集部 
フランスの至宝・ベルモンド[後]〜ベルモンド映画史上最大のヒット作『大頭脳』〜(文/江戸木純)
スターチャンネルが贈る「フランスの至宝・ジャン=ポール・ベルモンド特集」、前回のコラムでは、現在他では見ることができない2大レア作品『パリの大泥棒』と『コニャックの男』について詳しく書いたが、今回はその他の6作品について見どころを紹介していく。

目次[非表示]

  1. 『大頭脳』(69)
  2. 『いぬ』(62)
  3. 『オー!』(68)
  4. 『警部』(79)
  5. 『ジャン=ポール・ベルモンドの道化師/ドロボー・ピエロ』(80)
  6. 『ハーフ・ア・チャンス』(98)
  7. 終わりに
(前回コラムはコチラ

『大頭脳』(69)

© 1969 Gaumont (France) / Dino de Laurentiis Cinematografica (Italie)

 まずは今回の8作品の中で個人的に一番のおススメといえるのが『大頭脳』(69)。数あるベルモンド映画の中でもその痛快な面白さは3本の指に入り、フランスで観客動員554万人超を記録して、ベルモンド映画史上最大のヒット作となった1本。2020年10月に日本で開催された上映企画「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選」の中でも断トツの動員1位だった人気作である。

“ベルモンド映画が「ルパン三世」のアニメシリーズのモデル”といわれることの「論より証拠」ともいうべき、まさに実写版「ルパン三世」のような泥棒アクション活劇で、お話はNATOの軍資金を運ぶ輸送列車を狙う、イギリスの天才大泥棒“大頭脳”、フランスの凸凹泥棒コンビ、強欲なイタリアン・マフィアの三つ巴の強奪大作戦。国際スター豪華競演が売りでベルモンド一枚看板ではないものの、「脱獄する」「扉でなく窓から出入りする」「高い場所でぶら下がる」「動物と絡む」などなど、ベルモンド映画のトレードマークは満載で、ベルモンド映画をどれかまず1本と思っている向きにはもってこいの作品。これを見れば、ベルモンド映画がもっともっと見たくなるはずだ。

 まずは何より製作のスケールが大きい。フランス最大の老舗映画会社ゴーモンとイタリアの大物プロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティスの共同製作で当時、フランス映画史上最大の製作費をかけ、フランスを除く世界の劇場配給をハリウッド・メジャーのパラマウント・ピクチャーズが行った超大作。フランスからはベルモンドと当時フランスで大人気だったコメディアン、ブールヴィル、イギリスからは『007/カジノロワイヤル』(67)で一瞬ベルモンドとも共演している、『旅路』(58)、『ナバロンの要塞』(61)のオスカー俳優、デヴィッド・ニーヴン、そしてアメリカから『荒野の七人』(60)、『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』(66)のイーライ・ウォラックという国際的なキャストを揃え、物語は基本フランス国内で展開するが、イギリスのロンドン、イタリアのシシリー島、アメリカのニューヨークなどでもロケを敢行している。

 監督は『大進撃』(66)が40年以上フランスの国産映画史上歴代興行成績トップを維持し続けたヒットメイカーで、フランス映画界の喜劇王ジェラール・ウーリー。ベルモンドとは1982年の傑作『エースの中のエース』でも組んでいるが、『エースの中のエース』もフランスで545万人を動員する大ヒットとなっており、ベルモンド映画史上興行成績ナンバー1とナンバー2がウーリー監督作となっている。
 また、この作品は日本語吹替版にも注目して欲しい。ベルモンドの主演作は「ルパン三世」やクリント・イーストウッドなども吹き替えた山田康雄が吹き替えることが多かったが、この作品は広川太一郎がベルモンドを吹き替えたコミカルな“水曜ロードショー版”が有名で、スターチャンネルではその吹替版も見ることができる。

『いぬ』(62)

© 1962 STUDIOCANAL - Compagnia Cinematografica Champion S.P.A.

『いぬ』(62)は、ベルモンドがヌーヴェル・ヴァーグの決定打ともいうべき『勝手にしやがれ』(59)でブレイクした直後、『モラン神父』(61)で組んでいるヌーヴェル・ヴァーグの“精神的な父”とも呼ばれる名匠ジャン・ピーエル・メルヴィル監督との2作目。“いぬ”=密告者は誰なのか? ベルモンドが“いぬ”と疑われる売り出し中の若きギャングを好演した傑作フィルム・ノワールで、派手なアクションや女性との色恋を封印した、徹底的にクールで硬派なベルモンドの決定版だ。

『オー!』(68)

HO! a film by Robert Enrico ©1968 - TF1 - MEGA FILMS All rights reserved.

『オー!』(68)は、原作ジョゼ・ジョヴァンニ、監督ロベール・アンリコ、音楽フランスワ・ド・ルーベ、撮影ジャン・ボフェティ、そしてヒロインにジョアンナ・シムカスという前年の成功作『冒険者たち』(67)の主要メンバーとベルモンドが組んだ異色の青春ノワール・アクション。破滅型の成り上がり暴走ヒーローを詩情豊かに描いたアンリコ版『勝手にしやがれ』とでも呼びたい1本で、ベルモンドが演じるのは“アルセーヌ・ルパン+アル・カポネ”と呼ばれたレーサー崩れで一匹狼のギャング。あるシーン(ヒント:空港)でアラン・ドロンがカメオ出演しているのもお見逃しなく。

『警部』(79)

FLIC OU VOYOU a film by Georges Lautner ©1979 STUDIOCANAL – GAUMONT - Tous Droits Réservés

『警部』(79)は、『恐怖に襲われた街』(75)に続くベルモンド式ポリス・アクションの第2弾。フランス・ミステリ批評家大賞を受賞したミシェル・グロゾリアの「海の警部」を、『さらば友よ』(68)の監督でもあるジャン・エルマンが脚色し、『冬の猿』(62)、『地下室のメロディー』(63)の名脚本家ミシェル・オーディアールが台詞を担当、監督が『女王陛下のダイナマイト』(66)のベテラン、ジョルジュ・ロートネル、撮影は『太陽がいっぱい』(60)の大御所アンリ・ドカエ、音楽を『テス』(79)のフィリップ・サルドというフランス映画界の大物をズラリと揃え、ベルモンドが悪い奴には超法規的手段も辞さない暴走警部役で大暴れする。原題“刑事あるいはヤクザ”通りの乱暴ぶりは、ダーティ・ハリーやゴキブリ刑事も真っ青。ジップラインを使ったお得意の宙づりアクションから、欧州カー・スタントの神様レミー・ジュリアン指導によるカー・アクションと派手な見どころも豊富。ケーターハムやロールスロイスなど、画面を彩る名車の数々にも注目したい。

『ジャン=ポール・ベルモンドの道化師/ドロボー・ピエロ』(80)

©️ 1980 Gaumont / StudioCanal

『ジャン=ポール・ベルモンドの道化師/ドロボー・ピエロ』(80)は、『警部』の大成功を受けて、監督ロートネル、脚本エルマン、台詞オーディアール、撮影ドカエ、音楽サルドという同じチームで挑んだ犯罪コメディ。劇場未公開のままDVDが一度発売されたが現在廃盤で、傑作選での上映リストにも入っていないので、これも、現在スターチャンネル以外では見ることができないレア作品。水の都ヴェネチアを舞台に詐欺師で、大泥棒で、プレイボーイというベルモンド映画の基本を極めた超軟派キャラが、チャウ・シンチーあたりもビックリの徹底的にナンセンスなギャグ連発で突っ走るドタバタ活劇。運河を駆使した水上アクションに、“ベルモンド十八番”のヘリからの縄梯子にぶら下がる宙づり飛行まで、バカバカしさとハードなアクションのギャップが壮絶な怪作だが、軽快な犯罪喜劇を得意とするロートネルによるフレンチ・コメディ特有のクセの強い悪ノリ演出は、ベルモンド映画初心者にはちょっとおふざけが過ぎているように映るかもしれない。『いぬ』、『警部』あたりと続けて観ると、作品ごとに硬軟交互に挑み続けた俳優ベルモンドの役者としての幅の広さ、スケールの大きさが実感できるはず。黒人女スパイ、カロリーヌを演じるモデルでミ1974年ミス・ブラック・アメリカのフォン・グレッチェン・シエパードの美貌も見逃せない。

『ハーフ・ア・チャンス』(98)

『ハーフ・ア・チャンス』(98)は、『髪結いの亭主』(90)などの名匠パトリス・ルコントが、ジャン=ポール・ベルモンドとアラン・ドロンというフランス映画界の2大レジェンドへのリスペクトを込め、それぞれのキャリアを反映させたオマージュやパロディを満載しながら、どちらがバネッサ・パラディの父親かを競い合わせる同窓会的アクション・コメディ。ベルモンドにとっても最後期の主演作の1本。『ボルサリーノ』(70)以来の本格的共演を果たした最大のライバル同士が、衰えを見せずに互角に対峙する姿はベルモンド&ドロン・ファン、どちらも大満足の快作。撮影時64歳にして、ここでもヘリからの縄梯子へのぶら下がりアクションを見せるベルモンドの姿に感涙必至だ。そのまま見ても十分面白い作品だが、もちろん、ベルモンド映画やドロン映画をたくさん観ていれば、観ているだけより楽しめる。

@ 1997 - FILMS CHRISTIAN FECHNER - UGCF - TF1 FILMS PRODUCTION

終わりに

 前回も書いたが、常連俳優の顔ぶれも含め、ベルモンド映画は楽屋落ち的洒落やセルフ・パロディも多く、ベルモンド映画はどの作品も観れば観るほど、面白さは深まる。

 危険なアクションにスタントマンなしの生身で臨んだ世界最高のアクション・スターにして、サイレント喜劇からの伝統を体現する最高のコメディアン、そして名だたる名匠、巨匠が彼との仕事を望んだフランス映画界屈指の名優、観客を楽しませることにすべてをかけた本物のエンタテイナー、ジャン=ポール・ベルモンドは映画の中で永遠に生き続けている。映画賞とはほとんど無縁ではあったが、世界中の観客を楽しませ続ける彼の主演作こそ、真の映画遺産なのである。
Profile : 江戸木 純(えどきじゅん)
1962年生まれ。映画評論家、プロデューサー。配給会社エデン代表。『ムトゥ 踊るマハラジャ』、『ロッタちゃん はじめてのおつかい』などを日本に紹介。『王様の漢方』、『丹下左膳・百万両の壺』では製作、脚本も手掛けた。著書に「地獄のシネバトル」「世界ブルース・リー宣言」、共著に「映画突破伝」「日本映画最終戦争」などがある。「映画秘宝」「週刊現代」「ヴォーグ・ジャパン」「映画.com」などに執筆中。twitter.com/EdokiJun

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