世界にはびこるコカインビジネスを動かしているのは何者か?/『ZeroZeroZero 宿命の麻薬航路』(文/村山章)

解説記事 スターチャンネルEX 編集部
世界にはびこるコカインビジネスを動かしているのは何者か?/『ZeroZeroZero 宿命の麻薬航路』(文/村山章)
 すっかり手垢が付いたジャンル、と思っていても、時代の変化や作り手のセンスによって必ずや新しいものが生まれてくる。そんなことを改めて思い知らされたのが、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカと3大陸をまたいだドラマシリーズ『ZeroZeroZero 宿命の麻薬航路』だ。

 これまでにも、70年代の傑作『フレンチ・コネクション』やスティーヴン・ソダーバーグがアカデミー監督賞を獲得した『トラフィック』、Netflixオリジナル作品『ナルコス』など、ドラッグビジネスの裏側を描いた映画やドラマシリーズは数多く作られてきた。

 メキシコのドラッグ戦争が熾烈を極めていることは、映画『ボーダーライン』や『ナルコス:メキシコ編』を例に取るまでもなく世に知られているが、近年ドラッグビジネスで最も勢力を増しているのが、南イタリアの犯罪組織「ンドランゲタ」だという。「ンドランゲタ」は、シチリアのコーザ・ノストラやマッテオ・ガローネ監督の映画『ゴモラ』で描かれたカモッラなどと並ぶ“イタリア四大マフィア”のひとつで、ヨーロッパのコカイン市場の80%を牛耳り、その経済効果はイタリアのGNPの3~10%を占めるというから凄まじい。
 『ZeroZeroZero』では、そのンドランゲタとメキシコの麻薬カルテルが大きな役割を果たす。同じジャンルの作品の多くは、麻薬組織と取り締まる側の攻防をメインにしがちだが、本作の視点は大きく異なっている。コカインを巨大な「経済活動」として捉え、大西洋を結ぶ「流通ルート」の運営にスポットを当てているのだ。

 物語は大きく3つのパートに分かれている。1つはイタリア南部を舞台にしたンドラゲタの大ボスと跡継ぎである孫息子の権力争い。2つ目は、メキシコ第三の都市モンテレイを舞台にしたカルテル内の壮絶な下剋上。3つ目は、海運業を営むアメリカ人一家がメキシコからイタリアまでコカインを運ぶ苦難の旅が描かれる。

 国際的なキャストを揃えており、日本では馴染みの薄い顔ぶれが多いかも知れないが、味わいのある役者たちの顔が、作品の硬質に荒ぶる世界観を形作っている。またアメリカ編では麻薬組織とのパイプを持つ海運業者をガブリエル・バーンが、呪われた家業を受け継ぐ子供たちを『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』のアンドレア・ライズボローと『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』のデイン・デハーンが演じている。

 3つのパートはゆるやかに繋がっているものの、なかなか全貌は明かされない。それぞれに独立した物語として進んでいくが、ときおり登場人物たちが交叉し、暴力と裏切りの連鎖で死体の山が築かれていく。血を分けた家族も、苦楽を共にした仲間も信用できない。どれだけ重要なキャラクターに見えても、どれだけ丁寧に描かれていても、いつ命を落とすかわからない。まさに予測不可能な弱肉強食の世界。しかしビジネスそのものは巨万の富を生む装置としてただただ機能し続ける。この冷徹な視点が、作品の凄みとなって観る者を戦慄させるのだ。
 シリーズの舵取り役を務めたのは、『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』でハリウッドに進出したイタリア人監督ステファノ・ソッリマ。ソッリマは前述の 映画『ゴモラ』のTVシリーズ版も手がけており、『ZeroZeroZero』も『ゴモラ』と同じくロベルト・サビアーノの著作を原作にしている。サビアーノは、カモッラの実態を世に知らしめたことでカモッラから命を狙われており、『ZeroZeroZero』の原作は潜伏先の島にこもって書き上げたという。

 さらにソッリマは、エピソード監督としてデンマークから『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』のヤヌス・メッツ、アルゼンチンから『エル・クラン』のパブロ・トラペロを招聘。3人で演出を分担しつつ、時系列が複雑に絡み合う脚本をそれぞれの味付けで調理している。ストイックな語りの中に突如として挟み込まれるトリッキーな映像美や、人海戦術を使ったスペクタル、生々しいバイオレンスに目を奪われていると、いつの間にかスロースターターだった物語のうねりに巻き込まれている自分に気づくはずだ。

 とりわけ異色で印象の残るのが第5話。アンドレア・ライズボローとデイン・デハーンが扮する姉弟は、タンカーを使ったコカイン輸送を妨害されて、アフリカのセネガルからモロッコまで陸路での運搬を余儀なくされる。そして道中で現地の武装組織に拘束されてしまう。

 本作は基本的に、コカインが製造者から販売者の手に渡るまでのプロセスと、水面下でうごめく陰謀を描いているのだが、このエピソードは勝手が違う。ライズボローとデハーン演じる姉弟はアフリカの内戦やテロの真っ只中に放り込まれ、法の網目をすり抜けてきた自分たちでも対処できない圧倒的な暴力と混沌を目の当たりにするのだ。『ZeroZeroZero』は、コカインビジネスを通じて世界の現実を覗こうとする試みと言えるが、世界にはまったく別の惨禍や憎しみも数多く存在している。このエピソードは、暴力とカネですべてを支配できるというコカインビジネスの傲慢と限界を突きつけてくるのである。

 そして、いずれも一筋縄ではいかない8つのエピソードが完結する時には、まるでパズルのピースが組み上がるように、途方もなく強固な悪のシステムの存在が浮かび上がる。底冷えするようなパワーにねじ伏せられるこのドラマの興奮を、ぜひ味わっていただきたい。
『ZeroZeroZero 宿命の麻薬航路』
原題:ZeroZeroZero

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