傑作でも名作でも、快作佳作ですらないかもしれない。だが、その商魂には感服!ミレニアム・フィルムズ“サメ映画”3本(文/江戸木純)

解説記事 編集部 
傑作でも名作でも、快作佳作ですらないかもしれない。だが、その商魂には感服!ミレニアム・フィルムズ“サメ映画”3本(文/江戸木純)

目次[非表示]

  1. 初めに
  2. これが現ミレニアム(旧ニュー・イメージ)社のレッドオーシャン商魂遊泳術だ!
  3. 『ディープ・シャーク』[原題:SHARK ZONE](2003)
  4. 『シャ-ク・イン・ベニス』[原題:SHARK IN VENICE](2008)
  5. 『キラー・シャーク 殺人鮫』[原題:SHARKMAN](2005)

初めに

 今回取り上げる3本のサメ映画は、ミレニアム・フィルムズ(現ミレニアム・メディア)という同じ会社の作品だ。シルヴェスター・スタローンの『エクスペンダブル』シリーズ(2010、2012、2014、2022)や『ランボー ラスト・ブラッド』(2019)、ジェラルド・バトラーの『エンド・オブ・ホワイトハウス』シリーズ(2013、2016、2019)や『ハンターキラー 潜行せよ』(2018)などで知られるこの映画会社は、近年A級スターを起用したアクション大作で目立ってきたが、もともとは80年代の後半からニュー・イメージ(NU IMAGE)という社名で、低予算のB級ジャンル映画を数多く作ってきた映画買付業界では有名かつマニアにはお馴染みのイスラエル系映画商人の会社。得意の戦争アクションやニンジャなどの格闘技ものに加え、人喰いザメをはじめ、巨大クモ、巨大タコ、人喰いワニなどのアニマル・パニック映画は同社の初期からの看板作品である。

 正直言ってこの3本、傑作とか名作どころか、快作とか佳作という言葉ともまったく無縁の、突っ込みどころ満載の珍作、怪作の類だが、この映画会社の伝統的な哲学や商魂、それを実践する娯楽映画作りのテクニックが随所にぎっしり詰まっており、普通の映画鑑賞とはちょっと違う、映画を斜めから見るマニアックな楽しみ方ができる。

これが現ミレニアム(旧ニュー・イメージ)社のレッドオーシャン商魂遊泳術だ!

 ニュー・イメージ社は、70年代後半から80年代にかけてチャック・ノリス主演の『地獄のヒーロー』シリーズ(1984、1985、1988)やショー・コスギの『燃えよニンジャ』シリーズ(1981、1983、1984)などのB級娯楽アクションでヒットを連打し、ミニメジャーとまで呼ばれた独立系映画会社キャノン・フィルムズにいたメンバーが1992年に暖簾分けのような感じでスタートさせた映画会社。だから、基本的な営業方針や製作の方向性は、キャノンを率いたメナヘム・ゴーランがB級映画の帝王ロジャー・コーマンから学び、発展させたキャノン流に沿っている。

 一番の特徴は、大量宣伝されるメジャーの大作に似た低予算映画を大特急で作り、本家より先に公開するという便乗商法。アイデア勝負の大胆な企画や、主演スターだけ決め、派手なイラストのポスターを撮影開始前に作って業界紙にズラリと並べ、海外の配給会社に権利を先売りし、その契約書を提示して銀行から借入を行って撮影に入る映画的先物取引も80年代にキャが推し進めた映画ビジネスの錬金術。『シャークネード』シリーズなどで一部に人気のあるアサイラム社もこうした伝統の後継者といえる。

 キャノンは途中からA級、S級のネームバリューのスターや監督たちによる大作にシフトし、監督でもあるメナヘム・ゴーランが自身の作品に莫大な製作費をかけたりして傾いていくが、ニュー・イメージは当初、南アフリカに拠点を置き、キャノンの低予算映画製作を請け負う会社だった。90年代前半は、まだレンタル・ビデオ市場が大きく、世界的にB級アクションやホラーなどのジャンル・ムービーの需要が高く、低予算娯楽映画に特化した方針が大成功を収めた。そして、本体のキャノンの資金繰りが悪化し、倒産寸前で売却されて消滅していく中、ニュー・イメージは独立を果たして製作だけでなく自ら海外セールスも開始したのだった。

 2000年代に入ると同社は、共産主義時代に作られた巨大スタジオと熟練スタッフが在籍し、南アフリカよりさらに低予算で良質の映画が作れるブルガリアの撮影所ボヤナ・スタジオでの製作に目を付け、2005年には同スタジオを買収、低予算映画だけでなく『エクスペンダブルズ』シリーズなどの大作もほとんどそのスタジオで撮影するようになっていく。

 今回のサメ映画3本も新たに撮影されたシーンはほとんどブルガリアの同撮影所内のセットで撮影されている。エンド・クレジットのスタッフ名に最後にvの付く人拿が多いのはそのためである。それ以外の多くの見せ場は、ニュー・イメージが過去に製作した別作品の流用や、レンタル映像で賄われている。特にアクション・シーン、爆破シーン、群衆シーン等を他の作品で使いまわすのは4,50年代からの低予算映画製作会社の伝統的常套手段である。ニュー・イメージ作品の面白さの一つは、そうした使いまわしの巧みさだったりもする。

『ディープ・シャーク』[原題:SHARK ZONE](2003)

SHARK ZONE Copyright Info:
Copyright 2003 Martien Holding A.V.V. All Rights Reserved

『ディープ・シャーク』[原題:SHARK ZONE](2003)は、ワーナーが製作した久々のサメ大作『ディープ・ブルー』(1999)の便乗企画だった1999年製作の『シャーク・アタック』[SHARK ATTACK]から始まるニュー・イメージ製サメ映画の第4弾。

 沈没船に眠るスペイン王室の財宝を狙うロシアン・マフィアの陰謀に巻き込まれたあるダイバーの親子とその家族の戦いを描くアニマル・パニックというより『シャーク・トレジャー』(1975)や『ディープ』(1977)系冒険アクション。その沈没船はホオジロザメの巣窟で潜るのが困難なのだが、優秀なダイバーである主人公が息子を人質に取られて財宝引き上げを強いられる。

 他のニュー・イメージ製サメ映画同様、迫力あるサメ映像がたくさん使用されているが、基本すべてドキュメンタリー映像の流用で、同じカットがうるさいくらいに何度も登場する。銃撃戦と爆破シーンもほぼ同社別作品の流用だが、その強引な編集ぶりは逆に爽快で、映画はやはりモンタージュで作られているのだと感心させられてしまう。監督はニュー・イメージ作品のほとんどに製作者としてクレジットされているプロデューサーで、ニュー・イメージの設立者兼CEOアヴィ・ラーナーの弟ダニー・ラーナー。

『シャ-ク・イン・ベニス』[原題:SHARK IN VENICE](2008)

©️ 2008 Nu Image Films

『シャ-ク・イン・ベニス』[原題:SHARK IN VENICE](2008)は、ニュー・イメージ製サメ映画の第6弾。「ヴェネチアの水路にサメがいたら?」という突飛な発想に『ディープシャーク』とほとんど同じマフィア絡みの財宝発掘劇をマッチさせたアイデア商品。

 主演にボールドウィン兄弟の四男スティーヴン・ボールドウィン、ヒロインにスカーレットの姉、ヴァネッサ・ヨハンソンというS級スターの兄弟を主演に置くというのもキャノンやニュー・イメージ社がよく使う戦略

 同社サメ映画にさんざん登場したサメ映像満載だが、ほとんどが夜のシーンでよく見えない。新味としてはヴェネチアの水路にCGの巨大鮫が数回登場することだが、この時代まだCGが高価かつ今に比べると稚拙で、怖がらせるというより爆笑させるシーンとなっている。

 ヴェネチアの映像はほぼB班が撮った映像で、ボールドウィンの出演場面はほとんどブルガリアのスタジオ撮影、おそらく彼はヴェネチアには行っていない。とにかく全編、編集テクニックで作り込む低予算映画マジックを堪能できる作品だ。

 監督は『ディープ・シャーク』に続き、ダニー・ラーナー。今回放映はないが、この監督には『インパクト』[原題:RASING SHARK](2005)という、宇宙船がバミューダ沖に墜落してサメが凶暴化し、深海研究所が襲われ、軍の潜水艦が救助に向かうという、もはやジャンル不明のサメものストーリーを各種既成ニュー・イメージ作品パッチワークで作り上げた怪作もある。

スティーヴン・ボールドウィンとヴァネッサ・ヨハンソン

『キラー・シャーク 殺人鮫』[原題:SHARKMAN](2005)

© 2004 Equity Pictures Medienfonds GmbH & Co. KG II All Rights Reserved.

 最後の『キラー・シャーク 殺人鮫』[原題:SHARKMAN](2005)は、原題の通り、厳密にいうとサメ映画ではなく”サメ人間”が登場するモンスター映画。ニュー・イメージ社は2005年に『キラー・モスキート 吸血蛾人間』[原題:MOSQUIRO-MAN]と『キング・スネーク 殺人大蛇』[原題:SNAKEMAN]というケーブル局Syfyチャンネル向けのTVムービーを連作しており、これもその”~MAN”シリーズの1本。(但し、『キング・スネーク~』(スティーヴン・ボールドウィン主演!)は巨大蛇もので蛇人間は出てこない)。

 南海の孤島で極秘裏にサメ人間の繁殖を続けるマッド・サイエンティストと、サメ人間の餌と交尾の相手にするため島におびき寄せられた男女のサバイバルが描かれる。末期ガンの息子の治療のため、ガンにならないシュモクザメの細胞を注射し続けたところ、息子が水陸生息可能なサメ人間となり、人間を襲うようになってしまったという中学生が考えたような説得力皆無の設定を、メジャー作品にも出演するまともな俳優たちがまじめに演じ、バラエティに富んだサメ人間の襲撃から後半のサバイバル・アクションまで、そこそこテンポよく突っ込みどころ満載の見せ場が連続して飽きさせない。

 何といっても、サメ人間を造った科学者を『ZOMBIO/死霊のしたたり』(1985)でハーバート・ウエストを演じたジェフリー・コムズがオーバーアクト気味にノリノリで演じ、『アウト・フォー・ジャスティス』(1991)や『デビルズ・リジェクト マーダー・ライド・ショー2』(2005)など、悪役が多い個性派ウィリアム・フォーサイスがヒーローを演じるというマニアックなキャスティングも通好み。編集が細かすぎて全身がしっかり映るシーンはほとんどないが、2本脚で立つシュモクザメ男のモンスター・スーツもちゃんと作っている。サメ映画を期待すると肩透かしを食うが、この手のファンを楽しませるツボは心得ていて3本の中では一番のおススメだ。監督は元売れっ子ミュージック・ビデオ演出家でスティーヴン・セガール主演の『撃鉄 GRKITETSU ワルシャワの標的』(2003)、『沈黙の標的』(2003)のマイケル・オブロウィッツ。

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 CG技術の進化と低価格化によって、アサイラム社の『メガ・シャークVSジャイアント・オクトパス』(2009)や『シャークネード』(2013)のシリーズ、ロジャー・コーマン率いるコンコルド社の『シャークトパス』(2010)のシリーズなどサメ映画の変化球作品が量産され、サメ映画マニアが激増するのはこの3本の後だが、そうした進化型サメ映画の時代到来の基礎を築いた作品こそ、多様なアイデアをサメ映画と合体させてきた商魂逞しきニュー・イメージ社のサメ映画。これらを見なければ変種サメ映画は語れないのである。

 感動の名作も、痛快な傑作もいいけれど、たまにはこうした珍味を突っ込みながら味わうのも悪くない。きっと次の映画がもっと楽しく思えるハズだから。
Profile : 江戸木 純(えどきじゅん)
1962年生まれ。映画評論家、プロデューサー。配給会社エデン代表。『ムトゥ 踊るマハラジャ』、『ロッタちゃん はじめてのおつかい』などを日本に紹介。『王様の漢方』、『丹下左膳・百万両の壺』では製作、脚本も手掛けた。著書に「地獄のシネバトル」「世界ブルース・リー宣言」、共著に「映画突破伝」「日本映画最終戦争」などがある。「映画秘宝」「週刊現代」「ヴォーグ・ジャパン」「映画.com」などに執筆中。twitter.com/EdokiJun

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