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【『高地戦』(2011) 特集:もっと観るべき韓国映画 全作品解説⑧(文/岡本敦史)】

解説記事 スターチャンネルEX 編集部
【『高地戦』(2011) 特集:もっと観るべき韓国映画 全作品解説⑧(文/岡本敦史)】
おかげさまで再生回数常時上位、今や不動の人気ジャンル、韓国映画。好評にお応えし、8、9、10月と怒涛の作品大量投下!初月となる8月は「これを見逃していたら勿体無さすぎる」という鉄板タイトルを10本、韓国映画に詳しいライターで編集者の岡本敦史さんにセレクトしてもらいました。

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  1. 岡本喜八イズムを感じさせるすっとぼけた戦争諷刺コメディ…では韓国映画は終わらない!心温まるムードから最大出力で反転し、戦争の残酷さと不条理さを訴える

岡本喜八イズムを感じさせるすっとぼけた戦争諷刺コメディ…では韓国映画は終わらない!心温まるムードから最大出力で反転し、戦争の残酷さと不条理さを訴える

 朝鮮戦争末期、最前線の高地で繰り広げられた熾烈な戦闘を描いた戦争アクション大作。軍事政権時代の韓国では、反共プロパガンダの一環として戦争映画が大量に作られてきたが、本作はその対極を行くような一作である。脚本を手がけたのは、南北朝鮮軍兵士の交流を描いた大ヒット作『JSA』(2000)の原作者パク・サンヨン。監督のチャン・フンは『義兄弟 SECRET REUNION』(2010)や『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017)など、思想や出自の異なる者同士の邂逅と交流を描いてきた作家である。ゆえに単純な「敵と味方」「勝利と敗北」を描いた作品にはなっていない。

 1953年2月、東部戦線で戦死した中隊長の遺体から味方の弾丸が発見される。調査に派遣された韓国軍防諜隊のウンピョ中尉(『JSA』にも出演したシン・ハギュン)は、そこで戦友のスヒョク(コ・ス)と再会。彼の所属する通称“ワニ中隊”と行動を共にする。あるとき、ウンピョは隊員たちが敵軍と内通している証拠を探り当てるのだが……。

 『JSA』を観た人なら、その後の展開は想像がつくだろう。敵対する兵士たちの秘かな交流をユーモラスに描くシークエンスは、岡本喜八監督の『独立愚連隊西へ』(1960)の飄々とした「日中交流」も想起させる。ミステリアスなまでに若いワニ中隊のリーダー、イリョン中尉(イ・ジェフン)をはじめとする個性豊かな隊員たち、北朝鮮軍の鬼隊長(リュ・スンリョン)や“2秒”の異名を持つ女性狙撃手(キム・オクビン)など、多彩なキャラクター描写にも喜八イズムを感じずにいられない。ゆえに、このまますっとぼけた戦争諷刺コメディへと着地するのを期待してしまうが、韓国映画ではそうはいかない。戦争がいかに残酷で不条理なものであるかを訴えるために、心温まるムードから最大出力で反転し、とことんシビアな展開へと雪崩れ込むのだ。

 ようやく戦争が終わると安堵した兵士たちに、非情な宣告が下るクライマックスは、まさに地獄絵図。これまで丹念に描かれてきたキャラクターたちが容赦なく散っていく死屍累々の戦闘シーンは、痛切、凄絶の極みだ。「本来戦わなくてもいい者同士が殺し合う」愚かしさを描いている点では、むしろ『独立愚連隊』(1959)のサイコロひとつが引き金となるラストシーンと重なるかもしれない。

 一方、実際には休戦当日に高地での直接戦闘はなかったという記録もある。あくまでも「史実をもとにしたフィクションである」ことは留意すべきだが、それで作り手のメッセージまで取りこぼしてしまうのも勿体ない。ちなみにフィンランドの戦争映画『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』(2017)にも、休戦発効直前まで激戦が繰り広げられる描写がある。まったくありえない話、とは言えない。

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Profile : 岡本敦史
ライター・編集者。主な参加書籍に『塚本晋也「野火」全記録』(洋泉社)、『パラサイト 半地下の家族 公式完全読本』(太田出版)など。劇場用パンフレット、DVD・Blu-rayのブックレット等にも執筆。
紹介作品は動画配信サービス「スターチャンネルEX」にて配信中!

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