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【『1987、ある闘いの真実』(2017) 特集:もっと観るべき韓国映画 全作品解説④(文/岡本敦史)】

解説記事 スターチャンネルEX 編集部
【『1987、ある闘いの真実』(2017) 特集:もっと観るべき韓国映画 全作品解説④(文/岡本敦史)】
おかげさまで再生回数常時上位、今や不動の人気ジャンル、韓国映画。好評にお応えし、8、9、10月と怒涛の作品大量投下!初月となる8月は「これを見逃していたら勿体無さすぎる」という鉄板タイトルを10本、韓国映画に詳しいライターで編集者の岡本敦史さんにセレクトしてもらいました。

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  1. 軍事独裁政権終焉の顛末を、オールスターキャストの堂々たる国民的大作として作りきったこの作品、というより、韓国映画はすごい

軍事独裁政権終焉の顛末を、オールスターキャストの堂々たる国民的大作として作りきったこの作品、というより、韓国映画はすごい

 韓国映画はなぜこれほど積極的に、自国の社会問題、腐敗した政治や司法といった題材に斬り込めるのか。それはやはり「民衆が腐敗した国を自分たちの力で変えたから」という強い自負があり、いまだその記憶が鮮明だからではないか。

 1961年の軍事クーデターで権力を握ったパク・チョンヒ、その後継者となった軍人チョン・ドゥファンにより、韓国では軍事独裁政権が四半世紀以上にわたって続いた。独裁反対を叫ぶ市民運動は年々激しさを増し、これに対して政府は「反体制=共産主義者/北のスパイ」のレッテルを張り、厳しい弾圧を展開した。その暗黒の時代がいかにして終焉を迎えたのか、その顛末を描いたのが本作である。

 1987年1月、反乱分子の監禁・尋問が行われていた南営洞対共分室で、収監中の大学生が拷問により死を遂げた。当局はその隠蔽工作を図るが、マスコミと民主化運動家、一部の市民の協力により、その事実は全国に報道される。これを受けて反政府運動はさらに勢いを増し、同時に当局による弾圧も非情さを増す。6月、独裁反対を叫ぶ市民デモは全国18都市にまで拡大し、ついに改憲と政権移譲を大統領に約束させるに至る……。このドラマティックな経緯を、映画は史実をもとに、複数の架空の登場人物が織りなすサスペンスフルな群像劇として綴っていく。

 この作品が、というより韓国映画がすごいのは、この自国の黒歴史とも捉えられかねない出来事を、オールスターキャストの堂々たる国民的大作として作りきっている点だ。いかに民主化闘争が国民の誇りであるかという証左だろう。しかし、本作が作られたのは保守派の大統領パク・クネ(パク・チョンヒの娘)の政権下。実際に「政府に非協力的な文化人のブラックリスト」を作成していたことも、のちに明らかになった。そのため本作の製作準備は当時の反政府運動よろしく極秘裏に進められたという。

 劇中には、ハ・ジョンウ、パク・ヒスン、ユ・ヘジン、キム・テリ、ソル・ギョングといった実力派俳優陣が矢継ぎ早に登場し、まさに圧巻の豪華キャスト。なかでも誰より主役の貫録を放っているのが、最大最恐の敵キャラといえる対共分室所長役のキム・ユンソクである。そのド迫力は完全にヤクザ映画の親分だが、共産主義を憎む脱北者という出自を政治利用された男の悲哀もまた感じさせる、けだし名演である。

 いちばんの驚きは、これだけの大作をカルトムービー『地球を守れ!』(2002)の異才チャン・ジュナンが驚くほどの正攻法で撮り上げていることだ。決して没個性ではなく、むしろ彼の卓抜した演出スキルを全編にわたって実感できる。また、作中において重要な位置を占める実在の人物――拷問で命を落とす大学生を『ファイ 悪魔に育てられた少年』(2013)のヨ・ジングが、そしてデモ参加中に非業の死を遂げる学生運動家を『カメリア』(2010)のカン・ドンウォンが演じた配役には、監督のファンとしては感動を禁じ得ない。

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Profile : 岡本敦史
ライター・編集者。主な参加書籍に『塚本晋也「野火」全記録』(洋泉社)、『パラサイト 半地下の家族 公式完全読本』(太田出版)など。劇場用パンフレット、DVD・Blu-rayのブックレット等にも執筆。
紹介作品は動画配信サービス「スターチャンネルEX」にて配信中!

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